役立たずの木、名はゴンズイ

ナマズに似た岩場の磯に棲む海魚にゴンズイがある。背びれに猛毒があり、釣りあげて刺されようものなら、猛烈な痛みが襲う。天ぷらにすればうまいと聞くが、手にする者はまれだ。だから、ゴンズイは役立たずに揶揄されるようになった。

山地の樹木にもゴンズイ(権翠)がある。建築材料としては雑木として扱われる。やはり役立たずということである。こう見られるようになったのは、わずか半世紀ほど前からである。その前は、煮炊き用の焚き木として重宝されていた。

ゴンズイの実 (撮影2020.12.6)

いまの平林の里山には、赤松、楢、朴ノ木やコシアブラ、カシ、ソヨゴウ、エノキ、樺の木などがみられるが、今ではすべて“ゴンズイ” 、役立たずになる。私の生家は大正の初めに移築された侘び家だ。山から切り出されたのは、さらに百年以上も前になるだろう。

百年前に移築された民家の小屋組み。手斧(チョウナ)で削った赤松が使われている。昔のここは養蚕の場だった。

いま建材として主流の杉は客間の和室と仏間の柱の数本で、あとは土台も梁も松や楢やカシなどである。杉は高級で、山あいの杉皮葺きの苫屋には使えなかった。この建材の今は、十把一絡げで「雑木」と呼ばれ、切っても山に打ち捨てられる “ゴンズイ”木になり下がってしまった。

昨日(8月24日)のこと、峠道を散策していて、うす桃色に色づき始めたゴンズイの実を見つけた。秋には紅色の果皮が割れて、黒い実が見える。それが、花が咲いたように美しい。この実のつけ方が愛でられるようになり、今は庭木に居場所を見つけたようだ。

ゴンズイ (撮影2021.8.24)

欧州の赤松は「パイン」と呼ばれて、高級建材となっている。日本の赤松は「雑木」と呼ばれて山に打ち捨てられる。国内の天然資源にもっと目が向くようになることを願う。

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